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日本語教育機関における「名義貸し」問題 ――なぜ起き、なぜ今は通用しないのか

1. はじめに:なぜ「名義貸し」が問題になるのか

日本語教育業界にいると、ときどき耳にすることがあるのがが、いわゆる「名義貸し」です。
名義貸しという言葉自体は、他の業界でも耳にすることがあると思いますが、この業界では、他の業界より耳にする頻度が高いかもしれません。
特に主任や校長といった日本語教育機関の中核メンバーが実は名義だけ借りているようだとの噂を聞くことも意外と多いのですが、新制度のもとでは、これまで事実上見過ごされていた行為が、より明確に問題視され得る段階に入ったといえます。

本稿では、以下の3点を制度運用と実務の観点から整理します。

  • なぜ名義貸しが起きてしまうのか
  • なぜ旧制度では黙認されがちだったのか
  • そして、なぜ新制度では通用しないのか

2. なぜ名義貸しは起きるのか

名義貸しは、特に開設前の段階で起きやすいといわれますが、実務上は開設後にも発生するケースが見受けられます。
典型的な例としては、以下のようなものがあります。

  • 実態としては非常勤教員であるにもかかわらず、書類上は「本務等教員(専任教員)」や「教務主任」として扱われている
  • 教務主任としての実質的な職務を果たしていない人物が、要件充足のためだけに配置されている
  • 酷い場合には全く勤務実態がないのに官庁には「校長」や「教務主任」として報告されている

こうした状況が生じる背景には、複数の要因があります。
まず、特に教務主任については、資格・経験要件を満たす人材がかなり不足しているという現実があります。

新制度においては、教務主任の役割は形式的なものではなく、カリキュラム運用や教員統括の中核として位置づけられていますが、その水準を満たす人材を確保することは容易ではありません。また、教務主任としての要件を満たす人材であっても、さまざまな事業で教務主任として実働するほどの時間はないといった人もいいます。そこで、そのような人に幾ばくかのお金を払って名義だけ貸してくれと頼むケースもあるようです。

また、特に開設前の段階では、「本来支払うべき賃金をできるだけ抑えたい」「申請が通るまでの一時的な配置でよいのではないか」といった発想が働きやすいことも否定できません。特に校長と教務主任は学校開設の申請時には雇用されていることが求められているのですが、まだ実際には学生もおらず、収入もないわけですが、こうした人件費を支出したくないと思う経営者も、なかにはいるわけです。この場合、幾ばくかのお金を払い、また一応契約書を作って社会保険だけ入れたりして書類上は雇用がされているように見えるようにして、実際には給与を支払わなければ、経営者として、ずっと安く済みます。そこで、経営者のなかには、こうした手法でなんとか切り抜けて、告示(今は認定)を得てしまおうとする人も出てくるわけです。
しかし、こうした考え方は、制度の前提そのものと衝突します。

3. なぜ旧制度では見過ごされがちだったのか

では、なぜこうした名義貸しが、旧制度のもとでは見過ごされがちだったのでしょうか。
正直なところ、その理由を一つに断定することはできませんが、考えられる要因としては以下が挙げられます。

  • 入管職員の業務が極めて多忙で十分な実態調査ができなかったこと
  • 問題のある日本語教育機関を多く摘発し留学生数の減少すると地域の労働力や経済に影響を与えるという事情
  • 書面審査が中心で、実地調査に限界があったこと

実際には、すべての学校が緩やかに扱われていたわけではなく、実地調査を行う入管職員や、学校の状況によっては、厳しく調査・指導が行われていたケースも存在しました。
ただし、制度全体として見ると、「形式上の要件が整っていれば、一定程度は通過してしまう余地があった」ことも否定できないのが実情でしょう。

4. なぜ新制度では通用しないのか

新制度において、名義貸しが通用しなくなった背景には、明確な理由があります。
過去に日本語学校を巡ってさまざまな問題が生じたことを受け、国は、一定の質を満たす日本語教育機関のみを認定する方針を明確にしました。

その象徴の一つが、認定後の運営まで視野に入れた厳格な審査です。

実務上知られている事例として、旧制度下では、法務省の告示を受けた直後に教務主任等を変更する(つまり、その主任は「告示を受けるためだけの存在」だった)というケースも散見されたといわれています。

こうした運用を踏まえ、新制度の「認定申請の手引き」においては、完成年度までは原則として教務主任等を変更しないことが求められています。

さらに同手引きでは、「重大な誤りや虚偽の記載等の取扱い」について1ページ近くを割いて詳細に記載されています。
これは単なる注意書きではありません。制度として、「虚偽や形式的な整合性」を強く警戒していることの表れです。

5. おわりに:形式ではなく「実質」を問う制度へ

新制度のもとで、日本語教育機関に求められているのは、「要件を満たしているように見せること」ではありません。
誰が、どの立場で、どのような責任を持って、実際に学校運営を担っているのか。その実質が問われています。

名義貸しは、短期的には申請を通過させる手段に見えるかもしれません。
しかし、認定後の運営、更新、監査を見据えれば、それはむしろ将来の大きなリスクを抱え込む行為にほかなりません。

日本語教育機関は、単なるビジネスではなく、教育と公的制度の交差点に立つ存在です。
だからこそ、制度の趣旨を正しく理解し、形式ではなく実質に基づいた体制づくりを行うことが、これからの時代には不可欠だといえるでしょう。

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