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認定日本語教育機関の教育課程審査―「認定」と「不認定」の分岐点 ~ 文部科学省の認定結果・不認定相当事例から考える

認定日本語教育機関の申請準備を進めていると、「問題を指摘されたら不認定になるのではないか」と心配されることがあります。しかし、文部科学省が公表している認定結果を見ると、教育課程や評価方法、修了要件などについて具体的な留意事項を付されながら、認定されている日本語教育機関は少なくありません。

一方、不認定となった事例では、同じように教育課程上の問題が指摘されていても、その現れ方が異なります。

本稿では、文部科学省が公表した認定結果、「これまでの申請における教育課程に関する主な不認定相当事例」、認定基準及び「認定日本語教育機関日本語教育課程編成のための指針」等を踏まえ、教育課程に関する認定・不認定の分岐点を整理します。

分岐点は、「問題があるか、ないか」でも、「問題が何個あるか」でもないと考えます。

重要なのは、一つの問題が教育課程のどこまで波及しているか、そして、教育課程全体として到達目標までの仕組みが成立していると説明できるかです。

なお、以下は公表資料をもとにした当事務所の実務上の分析であり、「この条件を満たせば必ず認定される」という公式の判定基準を示すものではありません。

1 「留意事項がある」ことと「不認定」は同じではない

公表された認定結果には、認定された機関についても、さまざまな留意事項が記載されています。

例えば、

  • Can doを、機関の理念や対象となる学習者に合わせてさらに具体化すること
  • 評価方法と到達目標との関係を明確にすること
  • 評価基準を教員間で共有し、評価の公平性・一貫性を高めること
  • 修了時の日本語能力の判定方法をさらに精査すること
  • 学則等の記載を明確化し、生徒への周知方法を改善すること
  • 教育課程の実施後に成果を検証し、改善を続けること

などです。

これらは、必ずしも軽微な指摘ばかりではありません。

それでも認定されている例があるということは、審査が「修正すべき点が一つでもあれば不認定」という仕組みではないことを示しています。

問題の存在そのものよりも、その問題が教育課程全体の成立を損なうものなのか、それとも、成立している教育課程をより明確・適切にするための改善事項なのかを見る必要があります。

2 教育課程は「個々の項目」ではなく「つながり」で見る

教育課程は、到達目標、授業科目、教材、評価などを一つずつ独立して整えれば完成するものではありません。

概念的には、次のような連鎖として考える必要があります。

【教育課程の連鎖モデル】

  • 教育理念・教育目標
  • ⬇︎
  • 主たる対象となる学習者・進路
  • ⬇︎
  • 課程の到達目標
  • ⬇︎
  • 入学時レベル・修了時レベル
  • ⬇︎
  • 学習時間
  • ⬇︎
  • 授業科目
  • ⬇︎
  • 科目・レベル別の学習目標
  • ⬇︎
  • 学習内容・活動
  • ⬇︎
  • 教材
  • ⬇︎
  • 学習成果の評価
  • ⬇︎
  • 修了要件

例えば、到達目標をB2と設定していても、そのレベルに対応する学習内容が十分でなければ、到達目標と学習内容の間が切れています。

「話すこと(やり取り)」を重視する科目なのに、筆記試験だけで評価していれば、学習目標と評価の間が切れています。

修了要件が出席率や課題提出だけで、課程の到達目標の達成を確認する仕組みがなければ、教育課程の出口が切れています。

このように、問題の意味は、その項目だけを見ても十分には分かりません。

3 分岐点① 一つの問題が、どこまで波及しているか

ここが、申請前の点検で特に重要だと考えています。

例えば、

「Can doの表現が少し抽象的である」

という問題だけであれば、対象学習者や具体的な使用場面を踏まえて表現を精緻化することで改善できる場合があります。

しかし、

到達目標が抽象的

何を教えるべきかが曖昧

学習活動の目的も曖昧

何を評価すべきかが曖昧

合格基準も曖昧

修了時に何を達成したのか説明できない

という形で問題が波及している場合には、事情が異なります。

文部科学省が公表している不認定相当事例でも、理念・目標と教育内容が対応していない、到達目標が具体的なCan doになっていない、教材と学習内容・レベル・目標に齟齬がある、学習目標と評価方法が対応していない、修了要件で課程の到達目標の達成を確認していない、といった問題がそれぞれ挙げられています。

これらは別々のチェック項目ですが、実際の教育課程では相互につながっています。

したがって、申請前の診断では、「問題点が何個あるか」を数えるだけでなく、一つの問題が前後の要素にどこまで影響しているかを見ることが重要です。

4 分岐点② 基本設計を維持したまま改善できるか

問題の波及範囲を見ると、次に、その修正がどの程度のものになるかが見えてきます。

実務上は、次の問いが有用です。

その問題は、現在の教育課程の基本設計を維持したまま、精緻化・明文化・運用改善をすれば解消できるのか。

それとも、到達目標・学習時間・授業科目・学習内容・評価・修了要件の関係そのものを組み直す必要があるのか。

例えば、
「評価基準の表現をより明確にする」
「複数教員の評価基準をそろえる」
「修了判定の手順を学則等に明文化する」
といった課題であれば、教育課程の基本設計を維持したまま改善できる場合があります。

これに対して、
「B2を目標としているのに、B2到達を見込める学習内容・学習時間になっていない」
「科目の目標と授業内容・評価方法が対応していない」
「修了時に課程の到達目標を達成したか確認する仕組みがない」
という場合は、部分的な書き換えだけでは解消しない可能性があります。

ただし、これは「修正量が多ければ不認定」という意味ではありません。重要なのは、申請時点で教育課程の基本構造が成立していると確認できる状態かどうかです。

5 分岐点③ 書類相互の整合性と、機関自身の説明

教育課程の内容が妥当でも、申請書類相互の記載が食い違えば、その教育課程が実際にどのように運用されるのか分からなくなります。

また、過去の不認定事例では、書面上の不明確さだけでなく、面接で説明を求められても具体的・合理的な説明が得られなかったことが問題とされた例があります。

例えば、
「なぜこの学習時間なのか」
「なぜこの授業科目を置いているのか」
「この評価で何を確認しているのか」
「不合格となった生徒をどのように扱うのか」
「修了時の日本語能力をどのように確認するのか」
といった問いに対し、その設計理由を教育課程全体との関係で説明できる必要があります。

したがって、申請書類を作成し終えた段階は、準備の終点ではありません。

書類に記載された教育課程を、機関自身が理解し、その内容と理由を一貫して説明できる状態にすることが必要です。

6 分岐点④ 実際に運用できる教育課程か

教育課程は、書面上整っていても、実際に実施できなければ意味がありません。

例えば、

  • 必要な授業科目を担当できる教員がいるか
  • 時間割と教員配置に矛盾がないか
  • 教室その他の施設・設備で実施できるか
  • 使用する教材を現実に準備・運用できるか
  • 評価計画を実際の授業運営の中で実施できるか
  • 非常勤教員を含めて教育課程や評価基準を共有できるか

といった点も、教育課程の実現可能性に関わります。

この意味でも、申請様式や添付資料を個別に整えるだけでは足りません。

教育課程に書かれた内容と、時間割、教員配置、教材、評価、研修、学則・規程類などの実際の運用とが一致しているかまで確認する必要があります。

7 認定例と不認定例の差を「言葉の強さ」だけで見ない

認定結果では、認定された機関に対しても、「明確にすること」「再検討すること」「共有すること」「改善することが望まれる」といった留意事項が付されています。

一方、不認定事例では、「認められない」「判断できない」「確認できない」「合理的な説明が得られない」といった表現が見られます。

こうした表現の違いは参考になりますが、重要なのは文言そのものではありません。

なぜ「明確化・改善」で足りるのか。なぜ別のケースでは「確認できない」と判断されるのか。

その背景を見ると、前者では教育課程の骨格を前提として改善すべき点が示されているのに対し、後者では、複数の要素のつながり自体を確認できない場合がある、という違いが見えてきます。

したがって、公表された留意事項や不認定理由を読む際も、個々の指摘だけを切り取るのではなく、その指摘が教育課程の連鎖のどこに位置し、前後の項目とどう関係しているのかを見ることが有用です。

8 申請前に確認したい一つの質問

当事務所では、教育課程を確認する際、最終的には次の質問に集約して考えます。

この教育課程は、想定する学習者を入口の日本語能力から出口の到達目標まで引き上げる仕組みとして既に成立しているか。そして、そのことを申請書類と実際の運用の両方から説明できるか。

答えが「はい」であり、残る課題が表現の精緻化、評価基準の明確化、教員間の共有、実施後の検証などであるなら、教育課程の基本構造を維持しながら改善できる可能性があります。

これに対し、到達目標、学習時間、科目構成、学習内容、評価、修了要件などの関係を大きく組み直さなければ、この質問に答えられないのであれば、教育課程に関する不認定リスクを慎重に検討する必要があります。

まとめ

認定日本語教育機関の教育課程審査では、完成度100%の書類だけが求められているわけではありません。

一方で、形式を整えて提出し、問題を指摘されたところだけ後から直せばよい、という制度でもありません。

重要なのは、

  • 教育課程の各要素がつながり、入口から出口までの仕組みが申請時点で成立していること。
  • 一つの問題が教育課程全体にどこまで波及しているかを把握できていること。
  • そして、その設計が実際に実施可能であり、機関自身が合理的に説明できること。

公表された認定結果と不認定相当事例を比較する際には、単に「どのような問題が指摘されたか」だけでなく、その問題によって教育課程の連鎖がどこまで切れているのかを見ることが、認定・不認定の分岐点を考える上で重要だと考えます。

教育課程の「整合性チェック」をご検討の機関様へ

当事務所では、行政書士・法務博士としての客観的な法的視点に加え、実際の日本語教育機関におけるカリキュラム編成や学校運営の現場実務経験を活かし、申請予定の教育課程が「一本の線として成立しているか」を診断・支援するサービスを提供しております。

申請書類を提出する前の最終点検や、継続審査・不認定からの再申請に向けた基本設計の見直しでお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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参考資料

  • 文部科学省「認定日本語教育機関認定基準」
  • 文部科学省「認定日本語教育機関日本語教育課程編成のための指針」
  • 文部科学省「これまでの申請における教育課程に関する主な不認定相当事例」(令和8年3月)
  • 文部科学省「認定日本語教育機関の認定結果一覧」(令和6年度第1回~令和7年度第2回)

ご注意

本稿は、公表資料をもとに認定申請実務上の観点から整理した一般的な情報です。個別の申請について、認定の可否を保証するものではありません。認定審査では、教育課程以外にも設置者、教職員体制、施設・設備、財務、学習上・生活上の支援体制その他の事項が総合的に審査されます。

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