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認定はゴールではない――完成年度前の主任教員交代と教務体制維持の実務

認定はゴールではない――完成年度前の主任教員交代と教務体制維持の実務

認定日本語教育機関制度が始まり、日本語教育機関には、従来以上に「申請時の体制」と「認定後の実際の運営」との整合性が求められるようになりました。

認定申請では、理念、目的、教育課程、教員体制、校地・校舎、生活指導体制、事業計画など、多くの事項を示す必要があります。しかし、認定を受けた後も、その体制が当然に安定して続くとは限りません。

特に注意が必要なのが、認定後、完成年度に至る前の主任教員の交代です。

従来の法務省告示校においても、教務主任が途中で退職するということは実務上あり得ました。しかし、新制度においては、主任教員は単なる「教務担当者」ではなく、認定審査における教育実施体制の中核を担う存在です。

そのため、主任教員の交代は、単なる人事異動ではなく、場合によっては「認定時に示した教育実施体制が維持されているのか」という問題につながります。

1. 新制度における「主任教員」の位置づけ

現場では、従来の呼び方として「教務主任」という言葉が使われることがあります。一方、認定日本語教育機関制度上、重要な役職として位置づけられているのは主任教員です。

主任教員には、教育課程の編成や、他の教員の指導を行うために必要な知識・技能が求められます。文部科学省の確認事項でも、主任教員について、日本語教育課程、教員の研修計画、生徒への学習指導などに関して、他の教員を監督するにふさわしい知識・技能を有するかが確認されるとされています。就労・生活分野では、企業や自治体等と連携した日本語教育課程の編成など、コーディネーターとしての知識・技能も確認対象とされています。

また、主任教員は本務等教員であることが前提とされ、原則として2つ以上の認定日本語教育機関で本務等教員となっていないことも確認されます。例外的な扱いがあり得る場合もありますが、勤務時間、給与、社会保険、授業担当時間、業務内容、他の職業の有無などから総合的に判断されるとされています。

つまり、主任教員は「名前だけ置いておけばよい人」ではありません。教育課程の実施、教員指導、評価、研修、内部質保証などに関わる、教育面の中心的役割を担う人材です。

2. 完成年度前の変更がなぜ問題となるのか

認定申請において重要なのは、「完成年度」という考え方です。

文部科学省の手引きでは、認定申請書等に記載する内容は、原則として、認定に係る日本語教育課程の収容定員数をすべて活用して日本語教育を開始する年度、すなわち完成年度の初日を基準時点として記載することとされています。

さらに同手引きでは、認定は完成年度における実施体制等に基づいて審査を行っており、完成年度までの間は、基本的に申請内容に変更が生じることは想定されていないとされています。真にやむを得ない場合を除き、完成年度までに申請内容に変更が生じることは、申請時点においても変更を前提に申請していたことが強く推認され、「偽りその他の不正の手段により認定を受けた」ものとして認定取消しの対象となり得る旨も示されています。

もちろん、主任教員が退職したからといって、直ちに認定取消しになるという意味ではありません。病気、家庭事情、転居など、やむを得ない事情はあり得ます。

しかし、完成年度前の主任教員交代は、認定時に示した教育実施体制の重要部分に変更が生じることを意味します。そのため、学校側は、なぜ交代が必要になったのか、後任者は要件を満たしているのか、教育課程や評価、教員指導に支障がないのかを、具体的に説明できるようにしておく必要があります。

3. 主任教員が交代する場合の学校側のリスク

認定日本語教育機関は、認定を受けた内容を変更しようとするときは、あらかじめ届出をしなければならないとされています。教員体制の変更も、原則として変更日の2週間前までに届出を行うべき事項として整理されています。

主任教員の交代が生じた場合、学校側には少なくとも次のようなリスクがあります。

届出遅れのリスク

退職が急であった場合でも、学校としては、変更届出や必要書類の準備を行う必要があります。退職後に「後任が決まってから考える」という対応では、制度上の説明が難しくなる可能性があります。

後任者の適格性のリスク

後任の主任教員が、主任教員として必要な知識・技能、本務等教員としての位置づけ、社会的信望、他校との兼務状況などを満たしているか確認しなければなりません。

教育課程運営への影響リスク

主任教員が教育課程編成、教員研修、授業評価、成績評価、カリキュラム改善などを実質的に担っていた場合、交代によって教育活動が停滞する可能性があります。

特に、新制度では、「日本語教育の参照枠」等を踏まえた到達目標の設定、各科目の言語能力記述文、評価方法、教材の配列、授業計画との整合性が重視されます。これらは、書類上の引継ぎだけで十分に承継できるとは限りません。

たとえば、主教材をどの時期に、どの到達目標と結びつけて扱うのか、さまざまな評価をどのように接続するのか、各科目間で重複や抜け落ちがないかといった判断には、現場の教務上の経験が大きく関わります。

前任の主任教員の暗黙知に過度に依存していた場合、後任者が形式上は着任していても、実質的なカリキュラム運営や内部質保証を十分に回せなくなるおそれがあります。

認定時の申請内容との整合性リスク

認定申請時には完成年度の体制を前提に審査されています。そのため、完成年度前に主任教員が交代する場合、申請時の体制が本当に実現可能なものだったのか、という疑義を生じさせる可能性があります。

名義残し・名義貸しと見られるリスク

すでに退職している主任教員の氏名を、届出上・公表上・内部資料上そのまま残している場合、実態と書類が一致しない状態になります。これは、単なる事務処理の遅れでは済まない問題になる可能性があります。

4. 辞めた主任教員本人にも注意点がある

主任教員本人にとっても、「辞めたから終わり」とは限りません。

もちろん、主任教員が退職すること自体が違法というわけではありません。労働者である以上、退職の自由はあります。学校側の運営方針や労働条件に納得できない場合、退職を選択することもあり得ます。

ただし、本人側にも注意すべき点があります。

特に重要なのは、退職後も自分の名前が主任教員として使われ続けないようにすることです。退職日、主任教員としての職務終了日、引継ぎの状況、学校に対して変更届出等の手続を促した事実は、できる限り文書で残しておくべきです。

また、実態と異なる在職証明、勤務実態と異なる説明資料、日付を遡った書類、退職後も在籍しているかのような資料には、署名・押印しないことが重要です。

主任教員本人にとっても、名義が残り続ける状態はリスクになり得ます。将来、別の認定日本語教育機関で主任教員として採用される場合、過去の勤務実態や退職経緯について説明を求められる可能性もあります。

5. 辞めた主任教員を別の学校が採用する場合の注意点

認定校を完成年度前に退職した主任教員を、別の学校が認定申請に向けて採用すること自体は、直ちに問題ではありません。

むしろ、認定申請や教育課程編成の実務を経験した主任教員は、貴重な人材です。新たに認定を目指す学校にとって、その経験がプラスに働く場合もあります。

しかし、採用する学校側は、慎重な確認が必要です。

特に確認すべきなのは、次の点です。

  • 前校での退職日
  • 主任教員としての職務終了日
  • 本務等教員としての終了日
  • 前校が現在もその人を主任教員または本務等教員として扱っていないか
  • 新しい学校で申請時点から実質的に勤務できる状態にあるか
  • 前校での退職理由が、新しい学校の認定申請上、説明可能なものか

文部科学省の手引きでは、校長、本務等教員等について雇用証明書を添付する必要があり、その際、本務等教員が他の日本語教育機関の本務等教員でないことを確認している旨が分かるようにすることとされています。また、校長、主任教員については申請時点で雇用している必要があるとされています。

したがって、前校でまだ主任教員として扱われている人を、新しい学校でも主任教員として申請することは、二重計上や名義貸しの疑いを招きかねません。

また、前校で作成したシラバス、評価基準、申請書類、教員研修計画などを、そのまま新しい学校の申請に流用することにも注意が必要です。それらは前校の業務資料である可能性があり、秘密保持や著作権、業務資料の持ち出しの問題が生じ得ます。

新しい学校としては、「前校の資料を持ってきてもらう」のではなく、その主任教員の経験を活かしつつ、自校の理念、学生像、教育課程、教員体制に合った資料を新たに作成する必要があります。

6. 主任教員交代を予防するために必要な体制

主任教員の交代リスクを完全になくすことはできません。しかし、リスクを小さくすることは可能です。

重要なのは、主任教員1人に依存しすぎないことです。

たとえば、次のような体制整備が考えられます。

  • 主任教員の職務分掌を明確にする
  • 副主任教員や教務補佐的な役割を置く
  • 教務会議やカリキュラム委員会を定期的に開催する
  • シラバス、評価基準、授業計画、教員研修計画を組織として共有する
  • 認定申請書類と実際の運用との差分を定期的に確認する
  • 主任教員が退職する場合の引継ぎ手順をあらかじめ定めておく
  • 教員体制変更が生じた場合の届出フローを整備しておく

主任教員が有能であればあるほど、その人に業務が集中しがちです。しかし、新制度において重要なのは、個人の能力だけではなく、組織として安定的・継続的に日本語教育を実施できる体制です。

7. 認定申請支援だけでなく、認定後の体制維持支援が重要に

認定日本語教育機関制度では、認定申請そのものが大きなハードルです。しかし、認定はゴールではありません。

認定後も、情報公表、自己点検評価、毎年度の定期報告、変更届出等が必要とされています。文部科学省の手引きでも、認定日本語教育機関は、情報公表、自己点検評価、毎年度の文部科学省への定期報告、変更の届出等を実施する必要があるとされています。

特に、完成年度前の主任教員交代は、教育実施体制の根幹に関わる問題です。そのため、認定申請の段階から、主任教員の役割、権限、処遇、引継ぎ体制、バックアップ体制を整備しておく必要があります。

また、すでに認定を受けた機関で主任教員の交代が生じる場合には、単に後任者を探すだけではなく、変更届出、教育課程への影響、教員体制の継続性、文科省への説明可能性を総合的に整理する必要があります。

まとめ

認定日本語教育機関における主任教員は、教育課程の編成や教員指導を担う重要な役職です。

そのため、認定後、完成年度に至る前に主任教員が交代する場合には、学校側、主任教員本人、後任を採用する学校のいずれにとっても、慎重な対応が必要です。

特に重要なのは、次の点です。

  • 主任教員の交代を単なる人事異動として扱わないこと
  • 退職日・職務終了日・引継ぎ状況を明確にすること
  • 後任者の要件と勤務実態を確認すること
  • 前任者の名義を実態なく残さないこと
  • 申請時の体制と実際の運用との整合性を維持すること
  • 主任教員1人に依存しない教務体制を整備すること

認定制度の下では、「認定を取ること」だけでなく、「認定時に示した体制を継続して実施できること」が重要です。

インターナショナル行政書士事務所では、認定日本語教育機関の申請書類作成だけにとどまらず、認定要件の確認、教員体制の整理、主任教員交代時の実務対応、完成年度前の変更リスクの検討まで、法務と教務の両面から支援しています。

認定後の主任教員交代、教員体制の変更、完成年度前の運営体制に不安がある場合は、問題が大きくなる前に、早めにご相談ください。

参考資料

  • 文部科学省「認定日本語教育機関の認定審査に関する確認事項」
  • 文部科学省「認定日本語教育機関の認定申請等の手引き」
  • 文部科学省「認定日本語教育機関の認定申請等について」
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